(1997年 アメリカ)
馬鹿馬鹿しさをとことん突き詰めた結果、子供すら騙されない話になっています。コミック映画とは言え、知的レベルを落とすことにも限度があるということを示した貴重な作品でした。ドラマはまともに成立していないわ、見せ場は大雑把すぎるわと、ツライことしかありません。
作品解説
急ぎすぎたワーナー
前作『バットマン フォーエヴァー』(1995年)は全米年間興行成績No.1の大ヒットになりましたが、その成功は金額面のみならず、ティム・バートンの作家性ではなく商業的価値で勝負しようとしたワーナー幹部達にとっての成功でもありました。
彼らはこれで勝利の方程式を掴んだつもりになったのか、矢継ぎ早に続編の製作を指示。前作の全米公開日は1995年6月でしたが、その直後から製作を開始しました。
その結果、監督のジョエル・シューマッカーと脚本家のアキヴァ・ゴールズマンは『評決のとき』(1996年)を作りながら本作の企画を考えるという凄まじいスケジュールを強いられました。
人種問題をテーマにした社会派サスペンス『評決のとき』を撮りながら、バカバカしさ全開の『バットマン&ロビン』の話を考える。常人には不可能な芸当ですが、シューマッカーとゴールズマンは何とかやり切りました。さすがはプロ。
1996年9月から主要撮影に入ったのですが、シューマッカーは脚本の作りこみが甘いことを懸念していました。とはいえ公開日はすでに決定済なので、撮るしかないわけですが。
また、主演のジョージ・クルーニーはテレビドラマ『E.R.』との掛け持ちだわ、Mr.フリーズ役のシュワルツェネッガーの拘束期間はたったの25日間、しかも1日12時間以上は働かせられないという契約だわ、バットガール役のアリシア・シルバーストーンが太って準備していたコスチュームが入らなくなり、彼女の登場場面を削らざるを得なくなるわと、いろいろと問題も起こりました。
売上高は期待値に届かなかった
本作は1997年6月20日に全米公開され、最初の週末だけで4287万ドルを稼ぐ好調な初動を記録しました。
なお、前週の1位は『スピード2』(1997年)であり、2週連続で失敗作を掴まされた当時の観客には同情の念を禁じえません。
しかし作品の不出来の噂は瞬く間に広まって翌週以降は大幅に売上高を落とし、全米トータルグロスは1億732万ドルと、1億8403万ドルを稼いだ前作を4割以上下回りました。
他方、ワーナーは国際マーケットでは好調だったと主張しているのですが、それでも全世界トータルグロス2億3820万ドルで、こちらでも3億3652万ドルを稼いだ前作から3割減となっています。
一応フォローもしておくと、そうは言っても本作は1997年にワーナーが公開した作品の中ではもっとも売上高の高かった作品であり、期待値には届かなかっただけで、稼ぐのは稼いだ映画だったと言えます。
ラジー賞9部門ノミネート
本作は批評家からの酷評を受け、ゴールデン・ラズベリー賞では実に9部門にノミネートされました。ただし受賞したのは助演女優賞1部門だけでしたが。
なお、この年にゴールデン・ラズベリー最低作品賞を受賞したのはケヴィン・コスナー監督の『ポストマン』(1997年)でした。こちらもワーナー。
後年、MCUを取り仕切るプロデューサーのケヴィン・ファイギは、本作をコミック映画史上の最重要作と呼びました。
もちろんそれは作品内容を称賛するものではなく、バカをやるにも程があって、低能の底を示したのが本作だったということなのですが。
本作の不評はワーナーに深刻なトラウマを与え、ティム・バートンが準備していた『スーパーマン リブズ』の企画は中止。
また『バットマン』シリーズもクリストファー・ノーラン監督の『バットマン ビギンズ』(2005年)までの8年間は凍結状態となりました。
感想
低能の底を示した作品
ワーナーの方針に従い、シューマッカー版のバットマンは往年のテレビシリーズを思わせる馬鹿馬鹿しさを追求しています。
よって、本作を「馬鹿馬鹿しい」と言って批判することは的外れなのです。なぜなら、作り手も意図してそうしているのだから。
ただし活劇としての勢いを奪い、観客から真面目に映画を見ようという気を失せさせるレベルにまで馬鹿馬鹿しさを突き詰めたところは間違いでした。
本作の問題点は子供騙しであることではなく、子供騙しにすらなっていないことなのです。
チープで馬鹿馬鹿しくても、話のどこかには観客との共感の接点がなければ2時間は持ちこたえられないのですが、本作にはそれがなく、取り留めもないことになっています。
いくらコミック映画だとしても、知的レベルを落とすには限度がある。その底を示したのが本作でした。
ドラマは闇鍋状態
とはいえ本当に無為な2時間というわけでもなく、一応はドラマツルギーらしきものは存在しています。しかし、闇鍋状態で詰め込み過ぎだし、どれ一つまともに成立していません。
- ブルースと恋人の結婚問題
- 一人前と認められたいロビンとバットマンの確執
- バットマン、ロビン、ポイズン・アイビーの三角関係
- 執事アルフレッドの重病問題
- アルフレッドの姪バーバラの物語
- Mr.フリーズの夫婦愛
- ポイズン・アイビーが主張する地球環境問題
ブルースの恋人に至っては名前すら分からず、なぜ彼女を出してきたのかよく分からないし、バットマンとロビンの確執も有耶無耶状態でラストバトルに突入します。
アルフレッドの重病がきっかけとなって一致団結するのかと思いきや、そういうわけでもないのでよくわからん脚本でした。
そしてすべての戦いが終わった後、「なぜ僕のピンチを救いに来なかったの?」と質問してくるロビンに対し、バットマンは「君なら切り抜けられると信じてたから」と答えるのですが、それは助けに行かなかったことを正当化する詭弁でしょ。
こんな適当なことを言ってくるバットマンに対してロビンはキレるのかなと思いきや、「ああそうか」と実に清々しい笑顔を見せるので、こいつの頭も相当痛んでるなと思ったり。
またMr.フリーズは重病の奥さんを救うことが最終目的であり、ゴッサムシティに対してテロ活動を行っているのも、こうして脅迫することで難病の研究資金を得ようとしているかららしいのですが、テロをやるだけの資金と時間があるのなら、最初っから難病研究に突っ込めよと思います。
そして何やかんやあってMr.フリーズはブチ切れて、「俺と妻の仇であるゴッサムを凍らせてやる!」とか言うのですが、奥さんの病気にゴッサムは関係ないし、あなたが冷凍人間になったのも実験中に誤ってタンクに落ちたことが原因で、こちらもゴッサム関係ないんですが。
見せ場の規模が大きすぎる
ドラマがダメならダメで、大予算をかけた見せ場が面白ければまだ取り戻せるのですが、その点でも本作は厳しい出来となっています。
序盤からロケットで打ち上げられるバットマン&ロビンなどスケールの大きな見せ場が連続し、クライマックスではゴッサムシティ全体が凍結するのですが、スーパーマンならいざ知らず、バットマンにとってはスケールが大きすぎやしませんかね。
冷静に考えてバットマンのポテンシャルで何とかなるレベルの話ではないのですが、それでも彼は片づけてしまうものだから、戦力描写がかなり杜撰なものになっています。
その結果、何やってもうまくいくんだろうなという安心感が漂ってしまい、手に汗握る展開というものを生み出せていません。
≪バットマン シリーズ≫
バットマン_狂人がヒーロー【7点/10点満点中】
バットマン リターンズ_暗い・悲しい・切ない【8点/10点満点中】
バットマン フォーエヴァー_良くも悪くも漫画【5点/10点満点中】
バットマン & ロビン Mr.フリーズの逆襲_子供騙しにもなっていない【2点/10点満点中】
バットマン ビギンズ_やたら説得力がある【7点/10点満点中】
ダークナイト_正義で悪は根絶できない【8点/10点満点中】
ダークナイト ライジング_ツッコミどころ満載【6点/10点満点中】
バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生_話が分かりづらい【5点/10点満点中】
バットマンvsスーパーマン アルティメット_断然面白くなった【7点/10点満点中】
ジャスティス・リーグ_ドラマの流れが悪い【6点/10点満点中】
ジャスティス・リーグ: ザック・スナイダーカット_頑張れ!ステッペンウルフ【8点/10点満点中】
ザ・バットマン_長くてしんどい【6点/10点満点中】
コメント