バットマン_狂人がヒーロー【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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DCコミック
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(1989年 アメリカ)
圧巻のゴッサムシティのセットや、バットマンの設定など、実に丁寧に作られたヒーローもの第1話。ヴィランも魅力的で見どころは多いのですが、娯楽映画としての盛り上がりに欠ける点が難点でした。第1話というのは往々にしてこういうものですね。

作品解説

バットマンの歴史

バットマンは1939年に初登場したヒーローであり、登場するや否や爆発的な人気を獲得し、スーパーマンと並んでDCコミックの看板スターとなりました。

当初のバットマンは犯罪者に向かって「お前につける薬はない。死ね」とか言うような乱暴なヒーローであり、そのハードボイルドさがウケたのですが、1946年以降、DCは明るく陽気な少年ファンタジー路線に変更。

それに伴い、バットマンの性格も社会のため行動する模範的なヒーローとなりました。

1966年から1968年にかけて実写ドラマ化されたのですが、これが子供向けのコミカルな作風であり、「バットマン=馬鹿馬鹿しいヒーロー」という何となくのパブリックイメージがここで固定化。

テレビドラマはヒットしたものの、バットマンというコンテンツ自体へは悪影響をもたらしたようで、1970年代後半にはバットマンの人気は凋落しました。

断られまくった映画化企画

1979年、元MGM役員のベンジャミン・メルニカーと、インディアナ大学で世界初のコミック講座を開講した学者マイケル・E・ウスランが映画化権を取得。

二人はコロンビアピクチャーズやユナイテッド・アーティスツに企画を売り込んだのですが、いずれからも断られました。

そこでハリウッド界隈で顔の効くプロデューサーのジョン・ピーターズとピーター・グーバーを製作に加え、今度は4人で売り込みを開始。

ユニバーサルには断られたものの、『スーパーマン』(1978年)を大ヒットさせたワーナーはこの企画に乗ってきました。

1983年には『スーパーマン』(1978年)のスクリプトコンサルタントを務めた経験のあるトム・マンキーウィッツが雇われ、初期稿が執筆されました。それはバットマンとロビンのオリジンストーリーであり、ジョーカーとルパート・スローンがメインヴィランでした。

この脚本をもって監督探しが始まったのですが、アイヴァン・ライトマンやジョー・ダンテといった有名監督からはことごとく断られました。バットマンと言えばテレビシリーズの馬鹿馬鹿しいヒーローという印象が強すぎたためです。

そんなわけで実績のある監督からの人選は断念して新人監督から選ぶこととなり、その結果、アニメーター出身で、ワーナーで『ピーウィーの大冒険』(1985年)をヒットさせたばかりのティム・バートンが選ばれました。当時まだ20代でした。

バートンはテレビシリーズ版の雰囲気を引きずったマンキーウィッツ版の脚本を古臭く感じ、大幅な書き換えが必要だと判断したものの、彼自身はバットマンに詳しくなかったので、コミックファンの新人脚本家サム・ハムが雇われました。

主人公ブルース・ウェインの心の闇にスポットを当て、「なぜ蝙蝠の姿をする必要があるのか」という命題を丁寧に解き明かしたサム・ハムの脚本は、原作者ボブ・ケインからも支持されました。

そしてバートンの前作『ビートル・ジュース』(1988年)が1988年3月に全米公開されて4週連続全米1位の大ヒットとなったことから、ワーナーは監督の手腕の信頼性を再確認し、1988年4月に企画のゴーサインが出ました。

1988年4月からプリプロダクションを開始し、半年後の10月から撮影開始。撮影はわずか12週間で完了し、1989年6月に全米公開と、なかなかの早業で製作されました。

歴代興行成績第5位(当時)の大ヒット

本作は1989年6月23日に全米公開されるや、最初の週末だけで4049万ドルを稼ぎました。当時としては史上最高のオープニング記録でした。

翌週以降も好調は続き、僅か11日という史上最速ペースで1億ドルを突破。

全米トータルグロスは2億5120万ドルで、当時としては歴代5位の大ヒットとなりました。

感想

完璧に構築された世界観

本作でまず目を奪われるのが、完璧に構築されたゴッサムシティの様子です。

バットマンが誕生した1940年代のイメージが全般的に採用されているですが、設定上は現代劇である。そうした特異な世界観が圧倒的な美意識と映像技術で表現されており、実に見ごたえがあります。

パインウッドスタジオには『クレオパトラ』(1962年)以来の巨大セットが構築されたと言いますが、現在であればCGを使うであろうところ、巨大セットで表現しているということも、現在の目で見たところの味となっています。

かと言えば完璧にリアルというわけではなく、チープなアイテムが登場することも、コミック映画らしさにつながっています。

例えば主要な舞台のひとつである化学工場には、緑色の廃液が大量に入っている巨大プールがあります。この廃液の見てくれと言い、プールの構造と言い、「んなわけない」のですが、漫画のコマからそのまま飛び出してきたようなこれらのデザインが良い塩梅なのです。

本作はリアリティと誇張のバランスが非常にうまくいっており、コミック映画らしい世界観が構築されています。実に見事でした。

バットマンは狂人

主人公バットマンのキャラクターもよく考えられています。

『スパイダーマン』シリーズが顕著なのですが、なぜ悪と戦うのかという動機付けがヒーローにとっては重要であり、その説得力やドラマ性こそが観客からの支持の大きな分かれ目となってきます。

たいていの場合は公益性が戦う理由となるのですが、本作の場合は「バットマンもヴィランと変わらない狂人である」という物凄い解釈が取り入れられています。

ゴッサムシティの有力者で大金持ちであるブルース・ウェインは満ち足りた存在なのだが、唯一満たされないのが他人を痛めつけたいという欲求である。そこで覆面を被ることで内面の狂気を爆発させているというわけです。

で、その際に蝙蝠のモチーフを用いているのは、ブルース自身の恐怖の対象だから。

例えば米軍でも、「アパッチ」や「ブラックホーク」など彼らが征服してきたネイティブ・アメリカンの言葉を兵器の名称に用いることがあります。恐怖の対象を自らの武器にするということは、往々にしてあるのです。

犯罪者という外的と戦っているように見えて、実際には内に秘めた葛藤こそがバットマンのテーマなのです。

このバットマンを演じるにはヒーロー然とした俳優であってはならないということで、ティム・バートンはマイケル・キートンをキャスティングしました。

この人選にはワーナーが反対したばかりか、ファンからも5万通の抗議が寄せられました。ネットもSNSもなく、うるさいファンがコミュニティを形成している現代とは根本的に違う時代において、5万通という抗議は異例のものでした。

これを受けてキートンは「もし失敗すれば自分の俳優生命は終わる」と覚悟して臨んだようなのですが、作品を見れば、必死で平静を装っている狂人役にはキートンが最適任者であることは間違いありません。

ジョーカーの破天荒ぶり

彼と対峙するジョーカーは、犯罪界のロックスターのような男として描かれています。

廃液に突っ込んだことで不気味な顔になったが、それを悲観視せず堂々と素顔をさらし、自分の運命を呪うこともありません。欲望には忠実で、やりたいと思ったことは何でもやる。

ブルースが悶々としている部分をすべてクリアーした個性を持っており、ある意味でバットマンにとっては羨望の対象でもあるわけです。

ヒーローとヴィランを陰と陽として描くことはよくありますが、陽の部分を引き受けているのがジョーカーで、陰の部分を引き受けているのがバットマンであるという点が、本作の独自性となっています。

これは凄い解釈ですね。

で、ジョーカーを演じるにあたってはロックスターレベルの個性がなければならないということで、オスカー俳優のジャック・ニコルソンがキャスティングされました。

売り上げの歩合を受け取るという契約を交わしたニコルソンは、本作で6000万ドルものギャラを得たといわれています。

娯楽作としての面白みに欠けるのが難点

そんなわけでヒーロー映画としての作りこみの凄さは間違いないのですが、これが面白かったかと言われると、そうでもありません。

「ちゃんと成立させる」ということに全精力を注ぎ込んだためか、見せ場は血沸き肉躍るアクションからは程遠いし、ドラマ部分にも切実さがありません。

これがヒーローもの第1話の宿命っちゃ宿命なのですが、面白くなるのは次回作以降ということになります。

≪バットマン シリーズ≫
バットマン_狂人がヒーロー【7点/10点満点中】
バットマン リターンズ_暗い・悲しい・切ない【8点/10点満点中】
バットマン フォーエヴァー_良くも悪くも漫画【5点/10点満点中】
バットマン & ロビン Mr.フリーズの逆襲_子供騙しにもなっていない【2点/10点満点中】
バットマン ビギンズ_やたら説得力がある【7点/10点満点中】
ダークナイト_正義で悪は根絶できない【8点/10点満点中】
ダークナイト ライジング_ツッコミどころ満載【6点/10点満点中】
バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生_話が分かりづらい【5点/10点満点中】
バットマンvsスーパーマン アルティメット_断然面白くなった【7点/10点満点中】
ジャスティス・リーグ_ドラマの流れが悪い【6点/10点満点中】
ジャスティス・リーグ: ザック・スナイダーカット_頑張れ!ステッペンウルフ【8点/10点満点中】
ザ・バットマン_長くてしんどい【6点/10点満点中】

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コメント

  1. 匿名 より:

    幼少期はこの映画がとても大好きで、いつも近くの図書館でDVDを借りていました。個人的に思い入れの深い一作です。紹介してくださってありがとうございます。

    • 1989年時点で子供騙しレベルではないアメコミ映画って本作くらいのものだったので、私にとってもオンリーワンな作品でした

      • 匿名 より:

        確かに、ランボー3の制作費の半分でこれほどのビジュアルをつくれるのだから、当時の目から見ても大ヒットしたのも頷けます。