バットマン ビギンズ_やたら説得力がある【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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DCコミック
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(2005年 アメリカ)
神経質なまでに整合性やリアリティに拘ったストーリーが素晴らしく、説得力が違います。後半に向けて明らかになっていく真相や、華麗な伏線回収など、ノーランのストーリーテリングの手法は相変わらずお見事で、ヒーローもの第一話としては出色の出来映えとなっています。

作品解説

完成までの苦節8年

前作『バットマン&ロビン』(1997年)を製作中の段階から第5弾の製作はほぼ決定しており、後に『ポセイドン』(2006年)『アイ・アム・レジェンド』(2007年)を手掛ける脚本家マーク・プロセトヴィッチにより脚本が作成されていました。

しかし『バットマン&ロビン』の興行的・批評的失敗から第5作は撮影開始予定日の3か月前にキャンセルされ、企画の全面見直しが始まりました。

そこで監督のジョエル・シューマッカーはグラフィックノ-ベル『バットマン:イヤーワン』(1987年)の実写化を提案。

バットマンのアニメを多く手掛けるポール・ディニ、博識な作家ニール・スティーヴンソン、『タイタンズを忘れない』(2000年)の監督ボアズ・イェキンが脚色に雇われました。うちイェキンは、ドルフ・ラングレン版『パニッシャー』(1989年)を脚色した経験も持っています。

そんなわけで『イヤーワン』の言い出しっぺはシューマッカーだったにも拘らず、ワーナーは気鋭のダーレン・アロノフスキーに監督を依頼。そしてアロノフスキーからの提案で著名なコミック作家フランク・ミラーも脚本に参加しました。

アロノフスキー版は東京をゴッサムシティに見立て、バットマン役はクリント・イースウッドという特殊なもので、かなり目を引く企画だったとか。

しかし、ワーナーは別途ウォルフガング・ペーターゼン監督が進めていた『バットマンvsスーパーマン』の方を製作すると判断し、『イヤーワン』の企画は2002年に中止されました。

しかしそれから1か月も経たないうちに、ワーナーとペーターゼンは歴史大作『トロイ』(2004年)の製作を優先することに決定。その代わりとして製作されたコミック映画がハル・ベリー主演の『キャット・ウーマン』(2004年)でした。

この頃のワーナーは錯乱していたのでしょうか。

2003年頃にクリストファー・ノーラン監督が参加します。サスペンス映画『インソムニア』(2002年)でワーナーと仕事をしたご縁でしょうか。

ノーランはワーナー幹部達の前で、視覚やストーリーをどうするのかということを僅か15分程度で簡潔にプレゼンしたところ、企画地獄状態だった同企画に疲弊していた彼らにはかえって響いたのか、ノーランに任せるということになりました。

ノーランは『ブレイド』(1998年)等コミック映画に詳しい脚本家デヴィッド・S・ゴイヤーを指名し、二人で脚本を執筆。

この脚本は極秘扱いでワーナーの幹部すら読める場所が指定されていた上、『脅迫ゲーム』というダミーのタイトルが付けられていたため、マイケル・ケインは出演依頼を受けた際に、ギャング映画か何かだと勘違いしたようです。

2004年3月から撮影が始まったのですが、巨大な屋内セットで撮影された従前シリーズとは異なり、ロケーション撮影が多用されました。

またCG嫌いのノーランの方針で視覚効果も極力抑えられ、生身のアクションが重視されました。

クリスチャン・ベールの肉体改造

毎度変遷のあるバットマン俳優ですが、今回はさほど揉めずにクリスチャン・ベールに決定しました。

脚本家のゴイヤーはジェイク・ギレンホールが良いかなと思っていたのですが、ベールのテストを見て彼で行けると確信。

ただし問題だったのは、直前の主演作『マシニスト』(2003年)の役作りでベールが54kgまで減量していたことでした。彼の身長は182cmなので、54kgともなればアンガールズのリーダーになれるほどのガリガリ加減。

で、『マシニスト』の撮影終了は2003年7月末で、本作の撮影開始が2004年3月。

僅か半年強でバットマンの体に仕上げなければならなかったのですが、ベールはその短期間で30kg以上体重を増やし、今度はムキムキの体になりました。

ベールの役者馬鹿ぶりには毎度驚かされます。

興行的には成功した

本作の製作には1億5000万ドルかかり、さらに宣伝費として1億ドルがかけられました。当時としては、史上最も宣伝費をかけた映画だったと言われています。

まさにワーナーの肝いり中の肝いりだったわけですが、2005年6月15日に公開されるや、前週1位の『Mr. & Mrs.スミス』(2005年)を大差で抑えて1位を獲得。

全米トータルグロスは2億534万ドルで、『バットマン』(1989年)以来の2億ドル超えとなりました。

国際マーケットでも同じく好調であり、全世界トータルグロスは3億7185万ドルで、年間興行成績第9位を記録しました。

感想

やたら説得力のあるオリジン

映画化第一弾『バットマン』(1989年)は、すでにブルース・ウェインがバットマンの状態で登場し、彼のオリジンはフラッシュバックで断片が描かれる程度でした。

実写化作品でバットマンのオリジンストーリーがじっくりと描かれるのは実は今回が初めてなのですが、クリストファー・ノーランは驚くほど緻密に、これを描いていきます。

バットマンのオリジンには二つの課題があります。

  • バットマンを社会的にどう定義するのかという問題
  • 覆面を被って犯罪者を成敗という異常行動をとるに至ったブルースの内面の問題

この点、ティム・バートンは舞台となるゴッサムシティの非現実性を強調することで前者の課題を回避しつつ、ブルースの心理状態にスポットを当てるというアプローチを取りました。

これはこれで正解だったのですが、一方でノーランはというと、設定とドラマを密接にからめることで二つの課題に同時に答えを出すという、実にクレバーな物語を構築しています。

理想的な人格者だった両親が、ブルース少年の目の前で強盗に殺されたことが事の発端であることは伝統の通り。

犯人はジョー・チル(リチャード・ブレイク)という男で、逮捕から7年後に仮釈放の審議が行われており、成長したブルース(クリスチャン・ベール)は裁判所でチルを殺害しようとします。

なぜそんなことをするのかというと、事件当日にブルース少年が家族での行動計画を変えさせたために巻き込まれた悲劇であり、自分のせいで両親が死んだのではないかという負い目があって、自責の念にかられ続けたからです。

自分の手で両親の無念を晴らすことで楽になれるのではないかと思ったわけですが、チルの口封じをしたいマフィアのボス ファルコーニ(トム・ウィルキンソン)が送り込んだ刺客に先を越されてしまいます。

復讐対象を失い永遠にモヤモヤが残った状態のブルースは、ノープランでファルコーニの前に出ていくのですが、「ボンボンのお前には何も分からんだろ」と手厳しいことを言われてしまいます。

「実際、何も知らんし」と思ったブルースは、着の身着のままで貨物船に乗り込み、ウェインという姓を捨ててド底辺を旅して回ります。

食うや食わずに追い込まれれば、ブルースだって盗みや強盗を働くようになり、しかもそのことを悪いとも思わなくなりました。

ある環境に置かれれば誰だって犯罪者になりうる。

よって犯罪者個人を仕留めたり、復讐したりすることは自己満に過ぎず、人を犯罪者に変える社会的な土壌にメスを入れなければ根本は解決しないと確信します。

ここから、犯罪者を震撼させる象徴としてバットマンを生み出すに至るのですが、従前作品との大きな違いとして、今回のバットマンは街の強盗や殺人犯といった個別の犯罪の取り締まりを行わないということがあります。

彼の目標はあくまで社会の変革であり、今回はゴッサムを代表する巨悪ファルコーニをターゲットとして動いているのです。

理念と理念の衝突

話をバットマン以前に戻します。

強盗の罪で中国の刑務所に収監中のブルースの元に、ヘンリー・デュカード(リーアム・ニーソン)という男がやってきます。

デュカードは”影の同盟”の幹部であり、世界的大企業の御曹司であるブルース・ウェインが自分探しの旅をしていることから、この大型新人のリクルートに乗り出したというわけです。

影の同盟はブルースが抱いたのと同じ課題に何千年も取り組んできた秘密結社であり、忍者軍団を使って各種工作を働き、ある社会が堕落しきった場合には滅ぼすという荒療治も行ってきました。

彼らはそれを善だと信じてやっているわけです。

一時、ブルースもその理念に共感して忍者軍団の稽古を受けるのですが、重罪犯を処刑しろという命令に従えなかったことから、彼らと決別します。

悪に対しては断固たる措置をとるという主義の影の同盟に対し、ブルースは変革による正常化を目指しており、ゴールは悪の撲滅で共通していても、その方法論には大きな違いがあります。

また、影の同盟がヒマラヤの山奥に拠点を構えて人知れず暗躍するのに対し、バットマンが大都市で派手な活動を行って正義の象徴となるのも、実力による排除か、事前の抑止かという思想的違いに根差した差異となっています。

善vs悪ではなく、理念vs理念の戦いとしたことで、作品は哲学性を増したといえます。

後半の伏線回収が気持ち良い

かくしてゴッサムに戻ったブルースはバットマンとしての活動を開始するのですが、ファルコーニを操っているのはスケアクロウ(キリアン・マーフィ)で、そのスケアクロウは闇の同盟に利用されているという構図が明らかになっていきます。

徐々に明かされる事実によって物語の形が変わってくるというダイナミズムは、ノーランの持ち味ですね。

加えて、前半で提示された何気ない情報が伏線になっていて、後半にきちんと回収されていくという快感もあって、実によく出来ています。

例えば、ブルースの父は不況時の経済対策としてモノレールを作ったというセリフが序盤にあって、その時は何とも思わなかったのですが、後半で復活したヘンリー・デュカードによって、あの不景気はゴッサムを転覆させるために影の同盟が仕組んだものだったが、心ある経済人の動きで目的を達成できなかったと言います。

これにより、ブルースはゴッサムを立て直すことこそが父の遺志であり、両親の弔いになるという思いを強めて最後の決戦へと繋がっていくわけです。

見せ場にはやや難あり

とまぁお話は完璧だったのですが、見せ場がちょっと腑に落ちないんですよね。

ヒーローものは画。ティム・バートンはバットマンの全身像を映すよう配慮していたし、サム・ライミは『スパイダーマン』シリーズで漫画のカットを実写で再現しようとしていました。

その点、ノーランはクローズアップと細切れのようなカットを連発しすぎで、画になるポーズというものがほとんどありません。

そういえば2年後の『トランスフォーマー』(2007年)でも同様の批判がありましたが、ファンタジーのヒーローを現実に蘇らせるためには、徹底的に全身像を映さないという方法論が当時のハリウッドには存在していたんでしょうか。

ともかく、劇場での初見時にはバットマンの全身像をなかなか拝めないことがストレスでしょーがありませんでした。

加えて、最後のキーアイテムがマイクロ波放射器という謎のスーパー兵器であることは、それまで端正に作り込まれてきたストーリーに馴染んでいませんでした。

劇中の説明によると電子レンジの超強力版で、水道水を水蒸気化することでその都市の水道インフラを破壊する兵器とのことです。

さすがにそんな兵器はないだろというわけで、ここでちょっと冷めました。

≪バットマン シリーズ≫
バットマン_狂人がヒーロー【7点/10点満点中】
バットマン リターンズ_暗い・悲しい・切ない【8点/10点満点中】
バットマン フォーエヴァー_良くも悪くも漫画【5点/10点満点中】
バットマン & ロビン Mr.フリーズの逆襲_子供騙しにもなっていない【2点/10点満点中】
バットマン ビギンズ_やたら説得力がある【7点/10点満点中】
ダークナイト_正義で悪は根絶できない【8点/10点満点中】
ダークナイト ライジング_ツッコミどころ満載【6点/10点満点中】
バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生_話が分かりづらい【5点/10点満点中】
バットマンvsスーパーマン アルティメット_断然面白くなった【7点/10点満点中】
ジャスティス・リーグ_ドラマの流れが悪い【6点/10点満点中】
ジャスティス・リーグ: ザック・スナイダーカット_頑張れ!ステッペンウルフ【8点/10点満点中】

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