メメント_人は都合よく記憶する【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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クライムサスペンス
クライムサスペンス

(2000年 アメリカ)
クリストファー・ノーラン監督の出世作で、奇抜な着想と緻密な構成はこの時点から完成されている。ミステリー映画として一級であるだけではなく、オチにはドラマ性もあって、よくここまで作りこんだものだと感心させられる。間違いなく面白いと言える映画。

このレビューは どすこい様 からのリクエストです。

作品解説

クリストファー・ノーランの初商業映画

本作の脚本・監督を務めたのはクリストファー・ノーラン。

現在では巨匠として知られるノーランの長編2作目であり、初の商業作品である。

6000ドルの低予算で製作した長編第1作『フォロウィング』(1998年)が映画祭で評価されたクリストファー・ノーランは、弟のジョナサン・ノーランが考えた物語を第二作目に選ぶ。

ジョージタウン大学で心理学を専攻していたジョナサンは、前向性健忘症をテーマにした短編を執筆。これが本作の元となった。

1年かけて完成した脚本は『オースティン・パワーズ』(1997年)のプロデューサー ジェニファー・トッドとスザンヌ・トッドの目に留まり、900万ドルの製作費が付いた。

他人の金でプロのスタッフを使う現場が初めてのことだったノーランにとって、本作での経験が後の大作に大いに生きたという。

批評的・興行的成功

本作は2000年9月3日に公開されたが、当初の上映館はたったの11館だった。

しかし内容が話題を呼んで徐々に上映館を増やしていき、公開3か月目にして全米チャート8位にまで浮上。

全米トータルグロスは2554万ドル、全世界トータルグロスは4004万ドルで、低予算ながら興行的には大成功を収めた。

加えて批評面でも健闘し、その年のアカデミー賞では脚本賞と編集賞にノミネートされた。

感想

深く考えない方が楽しめる

本作を見るのは二度目。初見は劇場公開時で、かなり話題になった作品なのでその流れで見たが、とても楽しめた記憶がある。

それから20年以上も再見することはなく、今回2度目の鑑賞となったが、初見時と変わらず楽しめた。

一般に本作は難解な作品と言われており、確かに細部まで把握しようとすると骨が折れるのであるが、さほど考えていなくても最後まで見れば話はちゃんとつながる。

『テネット』などを見ても感じたのだが、クリストファー・ノーランの映画は深く考えずざっくり分かればいいという姿勢で見る方が、むしろ理解は進むように感じる。

実際、本作の撮影監督であり、『ダークナイトライジング』(2012年)までのすべてのノーラン作品を担当したウォーリー・フィスターも、本作の脚本が理解できないまま参加したと言っている。

ノーラン作品はそれでいいのである。

彼は映画を一度や二度見て分かるようには作っていないし、隅々まで分からなくても楽しめるようには作っている。なので深く考えすぎる必要はない。

映画はレナード(ガイ・ピアース)がテディ(ジョー・パントリアーノ)を殺す場面から始まる。

テディは「お前は何も分かっていない。一緒に地下へ行けば分かる」と言うのだが、レナードは構わず射殺。どうも何か裏がありそうだということがこちらにも伝わってくる。

そして映画は過去へと遡っていく。

サスペンス映画が結末部分から始まることはさして珍しくないのだが、本作が特殊なのは主人公が記憶を維持できる10分単位で遡っていくことである。

加えて、本編は時制の異なるカラーパートとモノクロパートが組み合わされており、この二つが最終的にどう連結するのかも最後まで見ないと分からない。

何とも厄介な構成であるが、これによって観客も前向性健忘症を患う主人公と同じく、過去を知らない状態に置かれることとなる。主題と語り口が整合したこのアプローチは凄いと思った。

主人公の不安定さこそサスペンス

本作の醍醐味は何かというと、10分しか記憶を維持できない主人公の不安定さである。

レナードは情報の蓄積ができない。だからいま目の前で話している人間が脅威ではないという保証がどこにもない。なので彼の挙動には常に緊張感が伴っている。

また他者からの情報の改ざんを受けかねない状況であるため、誰に利用されていないとも言いきれない。

この状況が物語にこの上ないスリルを付加している。

サスペンスとは衣料品のサスペンダーが語源であり、観客を不安定な宙づり状態に置くことがその心だが、本作はその語源通りのサスペンス映画だと言える。

その不安定さを表現するかの如く、この映画にはロングショットやワイドショットがない。どうやってここに来たのか、なぜ来たのか、周囲に何があるのかが分からない状況を視覚的にも作り上げているのである。

そんな中でキーとなる人物がテディ(ジョー・パントリアーノ)とナタリー(キャリー=アン・モス)の二人である。

両名とも『マトリックス』(1999年)の出演者であることは偶然ではなくノーランの意図したところらしい。

最初はテディが敵対者で、ナタリーが協力者であると思われたのだが、どうもそうではなさそうだと分かってきたあたりから、物語は混迷の度合いを強めてくる。本作は終始景色が変わり続けるアクティブなドラマでもあるのだ。

人は都合よく記憶する ※ネタバレあり

そうして分かったのは、レナードは1年以上も前に強姦魔への復讐を終えており、現在はありもしない脅威を追いかけているということだった。

しかもそれが誰かに仕組まれたことではなく、自分自身で改ざん行為を行っていたということが分かる。

テディが耳の痛い事実を突きつけてきたので、腹の立ったレナードは将来の自分がテディを殺すよう仕向けていた。

他人からの改ざんを疑い続けてきた観客にとっては意表を突くラストであり、サスペンス映画として見事なオチとなっている。

加えて、とっくにいなくなった妻の記憶しか寄りかかれるもののなくなったレナードは、復讐劇を続けることでしか自己の存在を確認できなくなっていたという点には、物の憐れが宿っている。

レナードはジョン・Gに復讐を遂げたという記録を自ら抹消していたのである。もしもそんなものが存在していれば、自分はもう生きていけなくなるから。

これはある男の悲しいドラマであると同時に、普遍性のあるテーマとも言える。

私たちは都合よく記憶を改ざんして生きている。私自身、家族や友人と昔話をしていると、自分が記憶違いをしていたことに気付くということがある。

人間とは事実の中でのみ生きているわけではない。自分はこうあるべきという物語を作り、それに合うように自分自身を偽るということは誰しも無意識のうちに行っている。

本作はそんな真理をも容赦なく突き付けてくるのである。

【おまけ】時系列順に直してみた ※ネタバレあり

本作は時間をシャッフルしてこそ面白い映画なのであるが、情報整理のためにも時系列通りにした物語も備忘的に書いておく。

ただしweb上に溢れる考察サイトほど細かく見て分析したわけでもないので、もし間違ってたらごめんなさい。

  • 保険調査員レナードの妻が暴漢に襲われ、レナードは一人を射殺するが、共犯者の反撃に遭い側頭部を殴打し、前向性健忘症を患う。
  • 警察官であるテディの協力もあって、レナードはもう一人の犯人ジョン・Gを殺害するが、復讐を果たした事実をすぐに忘れてしまう。そればかりか、復讐を遂げたという記録を自ら抹消して、永遠の復讐劇の中にわが身を投じる。
  • テディはレナードの面倒を見つつも、疑いを向けられづらい障碍者のレナードを自分の汚職に加担させるようになる。そんな中で、ヤクの売人ジミーをレナードに殺させ、20万ドルを奪おうとする。
  • ジミー殺害現場でテディと口論になったレナードは次のターゲットをテディとし、その顔写真に「奴の嘘を信じるな」とメモする。
  • ジミーの服と車を奪ったレナードは、車内にあったコースターを頼りにジミーの恋人 ナタリーが勤めるバーにやってくる。ナタリーはジミーのものを身に着けたレナードを怪しむが、直後に彼が脳障害を負っていることを知る。
  • ナタリーは言葉巧みにレナードを操り、個人的なトラブルを抱えているドラッグディーラー ドッドを始末させようとするが、テディの介入で阻止される。
  • レナードは自分自身が残したメモを辿って「テディ=ジョン・G」に辿り着き、彼を殺害して復讐を遂げた気分を味わう。

≪クリストファー・ノーラン監督作品≫
メメント_人は都合よく記憶する【8点/10点満点中】
プレステージ_異常者二人の化かし合い【5点/10点満点中】
インソムニア(2002年)_倦怠感・疲労感の描写が凄い【6点/10点満点中】
バットマン ビギンズ_やたら説得力がある【7点/10点満点中】
ダークナイト_正義で悪は根絶できない【8点/10点満点中】
ダークナイト ライジング_ツッコミどころ満載【6点/10点満点中】

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コメント

  1. どすこい より:

    リクエストレビュー本当にありがとうございます。
    やはり何か一本選ぶとしたらこの作品になるのでしょうか。
    ノーランお家芸の時間軸弄りでは真っ先に話題に上がることの多い本作ですが、個人的には「プレステージ」の、本編ラスト手前の主人公①が、自分の日記を元にマジックの種探しの旅に出かけたライバル②の手記を読みつつ、二人の出会いから今日に至るまでを回想する③導入という無駄に入り組んだ構成が印象に残っています。(本編も①~③を並行させて進むという…)
    難解風な構成やテーマを扱いつつも、結局すべては単純なエンタメに収束する彼の作風は激しく好き嫌いが別れるのも致し方なしという感じはしますね。