スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム_前作からドラマ断絶しすぎ【5点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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マーベルコミック
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(2019年 アメリカ)
ドラマにはおおむね乗れなかったものの、アトラクション映画としての楽しさで何とかなっていました。ただしこれは映画館で見てこそのものであり、家のテレビで見ると、もっと評価は低くなると思います。

©SONY PICTURES ENTERTAINMENT INC.

あらすじ

サノスとの戦いの後、ピーター達は高校生活に戻っており、学校が企画した2週間のヨーロッパ旅行に参加することにした。ピーターはヒーロー業や戦いに興味を失っていたが、エレメンタルズという新たな脅威を察知したニック・フューリーによって、強引に戦いへ参加させられる。

スタッフ・キャスト

監督は前作に引き続きジョン・ワッツ

ソニーのスパイダーマンは、大作経験は乏しくとも光るところのあるインディーズ監督の起用が恒例となっていますが、ジョン・ワッツもこの系譜に連なる人物です。

1981年生まれ。短編映画やテレビ界での演出を経て、ホラー映画『クラウン』(2014年)で長編監督デビュー。翌年のスリラー『COP CAR/コップ・カー』(2015年)がちょいと話題になっての本作起用だったのですが、インディーズ映画界のトップに君臨していたサム・ライミ、『(500)日のサマー』(2009年)が批評家に絶賛されたマーク・ウェブら前任者と比較すると明らかに見劣りする経歴であり、よほどプレゼンが優れていたのかな、などと思ってしまいます。ともあれ前作が世界興収8億8千万ドルの大ヒットになったのだから、当然の再任です。

脚本は前作に引き続きクリス・マッケナ&エリック・ソマーズ

前作『スパイダーマン・ホームカミング』には6名もの脚本家がクレジットされていたのですが、その6名のうちクリス・マッケナとエリック・ソマーズの2名のみが、本作で続投しています。

2000年代末よりテレビ界で脚本を書き、2017年とかなり最近になって映画界に進出してきたコンビ脚本家なのですが、この短期間で手掛けてきた作品が『レゴバットマン ザ・ムービー』(2017年)、『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』(2017年)、『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年)、『アントマン&ワスプ』(2018年)と、物凄いことになっています。今後のハリウッドを牽引する可能性のある要注目の脚本家コンビと言えます。

登場人物

ヒーロー及び防衛組織

  • ピーター・パーカー/スパイダーマン(トム・ホランド):ご存知の通りクモに噛まれてスーパーパワーを得たヒーロー(ただしMCU内でその描写は一切ない)。指パッチン組なので5年前と同じ姿をしている。MJに惚れており、学校が企画したヨーロッパへの研修旅行でMJに告白しようとしているが、ちょうど同時期に侵攻してきたエレメンタルズ対策にスパイダーマンを使いたいニック・フューリーにことごとく邪魔される。
  • クエンティン・ベック/ミステリオ(ジェイク・ギレンホール):並行世界「アース833」のヒーロー。ピーターたちの住む「アース616」にエレメンタルズが侵攻を開始したことから、それを食い止めるためにやってきた。エレメンタルズは「アース833」と同じパターンで出没することから、前回パターンを知るミステリオは次の出没場所と時間を正確に予測することができる。
  • ニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン):S.H.I.E.L.D.長官。アベンジャーズ失き後には積極的に現場に出るようになっている様子で、メキシコの村を襲ったハリケーンに顔があったとの情報から現地へと向かい、そこでエレメンタルズとミステリオに遭遇する。地球を守るためにはあと3体のエレメンタルズを倒す必要があることから、スパイダーマンを招集する。

ピーターの周辺人物

  • メイ・パーカー(マリサ・トメイ):ピーターのおばさんで、前作のラストで彼がスパイダーマンであることを知った。本作ではNPO活動を行っており、スパイダーマンを広告塔として使っている。ピーターのヒーロー業にはさほどの心配をしておらず、ピーターがあえて今回の旅行に持って行かないことにしていたスパイダースーツを、わざわざ旅行カバンに入れるなどした。
  • ハロルド・”ハッピー”・ホーガン(ジョン・ファブロー):元トニー・スタークの運転手にして、スターク・インダストリーズの警備部長。前作に引き続きピーターの世話係だが、メイ・パーカーへの接近の口実として利用している様子。なのでヨーロッパ旅行には同行せずNYに留まっている。

ミッドタウン高校

  • ミシェル・”MJ”・ジョーンズ(ゼンデイヤ):指パッチン組。暗い性格の皮肉屋だった前作から一転して、本作ではピーターとブラッドの両方から惚れられる。
  • ネッド・リーズ(ジェイコブ・バタロン):指パッチン組。ピーターの親友で、彼がスパイダーマンであることも知っている。前作ではピーターのヒーロー業に協力的だったが、本作では恋仲になったベティを優先しがちになる。
  • ベティ・ブラント(アンガーリー・ライス):指パッチン組。前作と同じく、無表情で校内放送を行っている。ヨーロッパ行きの飛行機で隣の席になったことからネッドと恋仲になった。演じるアンガーリー・ライスは終末SFドラマ『ファイナル・アワーズ』(2013年)や、ライアン・ゴズリングとラッセル・クロウが共演したアクションコメディ『ナイスガイズ!』(2016年)で素晴らしい演技を見せたアンガーリー・ライスで、本作の主要出演者で唯一、本当の10代です(2001年1月1日生まれ)。

ファイナル・アワーズ【8点/10点満点中_泣かせのツボを心得たアポカリプトSF】

  • ブラッド・デイヴィス(レミー・ハイ):非指パッチン組で、元はピーター達よりも年下だったが、現在では同学年となっている。学園一のモテ男で、MJを狙っている。
  • ユージーン・”フラッシュ”・トンプソン(トニー・レヴォロリ):学力コンテストチームの部員で、指パッチン組。前作では学校の人気者だったが、5年の不在の間に学園内での影響力を相当失った様子で、本作ではさほど目立たない。
  • ロジャー・ハリントン先生(マーティン・スター):前作に引き続き学力コンテストチームの顧問を務めている。非指パッチン組で、前作から5年分歳をとっている。サノスの指パッチンのどさくさに紛れて奥さんに逃げられたらしい。
  • デル先生(J・B・スムーヴ):ヨーロッパ旅行の引率の一人。教師ではあるがオカルトマニア。

※レビューには『アベンジャーズ/エンドゲーム』のネタバレが含まれています。

感想

前作『ホームカミング』と物語が断絶している

『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年)、及び『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)でのピーターは、ヒーローとして認めて欲しくて向こう見ずな行動をとる性格でした。

『ホームカミング』では小物だけを相手にしていろというトニー・スタークからの言いつけを守らずにバルチャーと戦ってしまい、一時的にスパイダースーツを取り上げられたほど。『インフィニティ・ウォー』でも「帰れ」というスタークの言葉を無視してサノスの宇宙船に留まり、惑星タイタンでの戦いにまで参加しました。

加えて、彼はサノスの指パッチンで消えたのだから体内時間は『インフィニティ・ウォー』よりさして経過していないはずなのですが、本作では前2作とはまるで別人格となっています。

ニック・フューリーやミステリオから求められてもヒーロー業へはまったく乗り気ではなく、呼ばれるから仕方なく参加しているだけで、できればそっとして欲しいんですけど、という状態となっています。

アベンジャーズ失き後に誰が地球を守るのかを市民達は心配しており、その穴を埋めるべくニック・フューリーまでが現場仕事に戻っている中で、残った数少ないスーパーパワーの保有者であるピーターが全体の流れと逆行した言動をとっていることにはかなりの違和感がありました。

しかも彼はトニー・スタークから目をかけられており、その経緯を考えればトニーの精神を引き継ぐ義務もあったはずなのですが、この大事な時に突然消極的になった様にはかなりイライラさせられました。

学園ドラマも前作と整合していない

前作『ホームカミング』でのピーターはバルチャーの娘リズに恋焦がれており、むしろピーターを意識していたのはMJの方だったのですが、本作では何の断りもなしにこの図式が入れ替わっています。

また、MJって暗くて皮肉屋でギークのピーターやネッドからすら意識されておらず、異性から相手にされるタイプではなかったはずなのですが、本作ではピーターのみならず、学園一のモテ男ブラッドにまでモテているという状況となっています。これではちょっと変化ありすぎと感じました。

またピーターの恋愛観も変わりすぎで、前作『ホームカミング』では意中のリズとようやく両想いになったにも関わらず、大切なホームカミングパーティーにリズを残してまでバルチャーとの戦いを優先するほど恋は二の次だったはずなのですが、本作ではMJに告白したい、ブラッドに先を越されたくないという意思が最優先となっており、ヒーロー業を二の次にしている点もいただけません。

ミステリオのテクノロジーに無理ありすぎ ※ネタバレあり

ミステリオの正体はスタークにぞんざいに扱われたエンジニアであり、同様の境遇を持つ他のエンジニア達と組んでエレメンタルズやミステリオという架空のスーパーパワーを全世界に信じ込ませ、ピーターがトニー・スタークから引き継いだスターク社のテクノロジーへのアクセスの鍵を奪おうとしていました。

その際の、プロジェクションマッピングを進化させたような技術とドローン技術を使って都市の破壊を演出するという手法はさすがに無理ありすぎで、話に全然乗れませんでした。

ピーター一人を騙すということにした方が良かったのではないかと思います。

ただし、見せ場は楽しい

そんなこんなで話には全然乗れなかったのですが、見せ場の楽しさで何とかなっています。

ピーターがミステリオの作り出した悪夢とも現実ともつかない世界で攻撃を受ける場面では、その独創性で目を楽しませてもらったし、スターク社製の無数のドローンがピーターを襲うクライマックスは怒涛の迫力でした。

私はIMAX 3Dで鑑賞したのですが、この場面では3D効果も絶好調。浮遊感や高低の表現が実にうまくいっており、アトラクション映画としても十分に機能していました。

J・K・シモンズ復活に興奮

そしてラストですが、サム・ライミ版『スパイダーマン』(2002年)シリーズでお馴染み、デイリー・ビューグル紙編集長役でJ・K・シモンズが突如復活して、心底驚かされました。

ユニバース間の整合性とかいろんな問題もあるものの、やはり編集長はJ・K・シモンズでしょ。彼の登場で、いよいよスパイダーマンシリーズは本格起動したなという実感を持ちました。

ちょっと気になったポリコレの件

ポリティカル・コレクトネス、通称ポリコレへの配慮が現在のハリウッド映画の特色となっていますが、本作もこんな感じになっています。

  • ゼンデイヤ(ミシェル・”MJ”・ジョーンズ役):父が黒人で、母が白人
  • ジェイコブ・バタロン(ネッド・リーズ役):両親がフィリピン人
  • レミー・ハイ(ブラッド・デイヴィス役):父が中国系マレーシア人で、母が英国人
  • トニー・レヴォロリ(ユージーン・”フラッシュ”・トンプソン役):両親がグアテマラ出身

その他にイスラム系の生徒もおり、ミッドタウン高校の生徒で白人なのはピーターとベティだけで、残りはすべて有色人種という物凄いことになっています。

しかも、スクールカースト上位のブラッドとフラッシュが共に有色人種で、白人のピーターが下に見られているという状況。さすがにこれはやりすぎです。

アメリカ国内のアジア系やアフリカ系の人たちは、こんな無理やりな光景を見て喜んでいるのでしょうか。

≪スパイダーマン シリーズ≫
スパイダーマン_前半最高、後半残念【7点/10点満点中】
スパイダーマン2_良質な青春ドラマ【8点/10点満点中】
スパイダーマン3_豪快に破綻した最終章【4点/10点満点中】
アメイジング・スパイダーマン_改悪部分多し【5点/10点満点中】
アメイジング・スパイダーマン2_悪くはないが面白くもない【6点/10点満点中】
スパイダーマン:ホームカミング_バルチャーだけが良かった【5点/10点満点中】
スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム_前作からドラマ断絶しすぎ【5点/10点満点中】
スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム_面白いけど微妙な部分も【7点/10点満点中】

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コメント

  1. 匿名 より:

    初見の時はホームカミングから時間を空けて観たのであまり気にならなかったんですが
    連続でみると酷いものですね 筆者のおっしゃる通りで違和感が凄い

    • 私は前日に第一作を見てから映画館に行ってしまったので、もう違和感しかありませんでしたね。ヘンに予習せずに見に行けば楽しめたんだろうなと、悔しかったくらいです。