突入せよ! あさま山荘事件_働くおじさん映画【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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実話もの

(2002年 日本)
驚くほど思想色の抜けた実話ものであり、働くおじさん達の映画になっていました。警視庁と県警の縄張り争い、会議室と現場との連携の悪さなど、当時現場で起こっていたことを赤裸々に描いた内容となっており、冷静に考えて鎮圧には失敗していたという結論も含めて、意表を突いた面白い映画でした。

あらすじ

1972年、警戒中の長野県警機動隊が指名手配犯だった連合赤軍メンバーを発見。赤軍メンバーはあさま山荘に侵入し、管理人の妻(篠原涼子)を人質に立てこもった。

後藤田正春警察庁長官(藤田まこと)は長野県警が過激派鎮圧に不慣れであることを憂慮し、警視庁の佐々淳行警視正(役所広司)らを現地に派遣する。縄張り意識の強い長野県警と警視庁は対立しながらも、無傷での人質救出を目指す。

スタッフ・キャスト

監督・脚色は原田眞人

1949年静岡県出身。『さらば映画の友よ インディアンサマー』(1979年)で監督デビュー。特撮の東宝とガンダムのサンライズが組んだ自称「史上初の実写巨大ロボットムービー」である『ガンヘッド』(1989年)の監督・脚本を務めました。

90年代に『KAMIKAZE TAXI』(1995年)や『バウンス ko GALS』(1997年)で高い評価を受け、『金融腐蝕列島〔呪縛〕』(1999年)以降は社会派のテーマを娯楽作に翻案できる監督として重宝されています。

近年は日本映画界における大作の担い手の一人となっており、リメイク版『日本のいちばん長い日』(2015年)、『関ヶ原』(2017年)、『検察側の罪人』(2018年)などを手掛けています。最新作は岡田准一主演の『燃えよ剣』(2020年)なのですが、コロナ禍の影響で公開が延期されています。

メインは監督業なのですが、英語に堪能であることを活かして戸田奈津子の日本語訳が却下された『フルメタル・ジャケット』(1987年)の字幕製作や、『ラスト・サムライ』(2003年)での大村役などでも知られています。

主演は役所広司

1956年長崎県出身。高校卒業後には千代田区役所で働いていたのですが、仲代達矢が運営する無名塾の試験に合格して俳優に転身しました。1980年にテレビデビューし、1984年のテレビドラマ『宮本武蔵』で初主演を務めました。

原田眞人監督の『KAMIKAZE TAXI』(1995年)で高評価を受け、『Shall we ダンス?』(1996年)、『失楽園』(1997年)が大ヒット。カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『うなぎ』(1997年)にも主演し、短期間で日本を代表する俳優となりました。

原田眞人監督作品の常連で、他に『金融腐蝕列島〔呪縛〕』(1999年)、『日本のいちばん長い日』(2015年)、『関ヶ原』(2017年)にも出演しています。

作品概要

「あさま山荘事件」とは

本作は、劇中の主人公でもある元警察官僚 佐々淳行氏のノンフィクション『連合赤軍「あさま山荘」事件』(1996年)を原作としています。

では、そもそもあさま山荘事件とは何だったのかについて触れておきます。

1955年に日本共産党が武装闘争路線を正式に放棄したことをきっかけに、暴力革命路線を掲げる新左翼が誕生。1960年安保闘争やベトナム反戦運動で影響力を拡大していったのですが、有力なリーダー達が逮捕されたり国外逃亡したりといった中で徐々に組織力は減衰し、大衆支持も失っていきました。

そんな中で残されたメンバー達の思考はどんどん内側へと向かっていき、小異を気にしての内ゲバなどが頻発するようになっていました。

そして起こったのが1971年から1972年にかけて起こった山岳ベース事件であり、警察の捜査から逃れるために群馬県内の山岳ベースに身を潜めていた連合赤軍のメンバー達が、「総括」と称して12名もの仲間を殺害。

さらに狭まる警察の包囲網から逃れるべく生き残った17名の連合赤軍メンバーは山岳ベースを放棄し、東京を目指して移動を開始するのですが、その過程で4名が脱走、8名が逮捕され、最終的に残ったのは5名だけ。

その5名にも捜査の手は伸び、逃亡の最中に偶然発見した浅間山荘に管理人の妻を人質にとって立て籠もりました。これが「あさま山荘事件」です。

感想

思想色が限りなく薄められている

上記の「作品概要」にてあさま山荘事件の概略に触れてはみましたが、本編ではこの辺りの経緯はまったく描かれていません。興味を持たれた方は若松孝二監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2008年)をご覧になってください。

本作には連合赤軍という言葉すらはっきりと出てこなかったと思います。犯人側の描写はほとんどなく、セリフも与えられておらず、作品の思想色は限りなく薄められているというわけです。

あさま山荘事件を描く本作において思想的背景をほぼ扱わないということはかなり大きな決断であり、過去にこの事件を扱った作品でこのようなアプローチをとった作品はなかったと思います。

この思い切った判断が奏功して、主題がはっきりと浮かび上がりました。その主題とは何だったかと言うと…

無理筋の指示に混乱する現場のおじさん達

銃を持っている敵に対してこちらは銃を使うなと言われ、人質を無傷で取り戻せ、犯人を生け捕りにしろ、こちらも死人を出すなと上から雁字搦めにされながらも、事態の収拾に動く警察官達の姿です。

思想色を廃し、視点を警察側のみに絞ったことで、本作は大仕事に挑むおじさん達の物語に終始することができました。

そしてこの警察官達を過剰に英雄視することもなく、組織のメンツをかけたいがみ合い、現場での連絡ミスや勘違い、蓄積されていく疲労とストレスといったネガティブ要素も包み隠さず描かれます。

クライマックスで嫌味な警察官僚の言う「大失敗だ。たった5名の立て籠もり犯に1500名もの警察官が10日間も振り回された」というセリフが、この事件をもっとも端的に示しています。

大のおとながこれだけの大騒ぎをして、20代そこそこのテロリストに主導権を握られっぱなし。最後は一か八かの鉄球作戦で、人質も犯人も死ななかったからよかったものの、なかなか決着を付けられずに8時間もの長丁場となり、放水で人質が凍死していてもおかしくないほどのもたつき加減でした。

冷静に考えて、あさま山荘事件では警察は評価される働きをしていません。

ただしそれは後藤田正晴警察庁長官からの「犯人を生け捕りにしろ」という指示が悪かったためだし、後藤田がそのような無理を言った背景には、1970年の瀬戸内シージャック事件で犯人を狙撃した警察官が殺人罪に問われるという苦い経験があったためだし、それを追及しはじめると犯罪者の人権を過剰に擁護していた当時のマスコミ・政治家・国民が悪かったのかという話にもなっていきます。

そこまで網を広げると作品は収拾がつかなくなるので、事件の評価や当時の社会情勢は極力避けて、作品は頑張るおじさん達の姿にフォーカスしました。

この判断によって作品にははっきりとした軸が出来上がりました。この要約は正解だったと言えます。

理想的なリーダーシップ

事件が起こったのは長野県であり、地元の長野県警が対応に当たっているのですが、後藤田正晴警察庁長官(藤田まこと)からの指示で警視庁からも人が派遣されます。

その中心となるのがイギリスへの出張でSASの研修を受けてきた佐々淳行警視正(役所広司)なのですが、佐々が振るうリーダーシップが実に理想的なものでした。

縄張り意識のある長野県警は警視庁からの助言を受け付けず、会議でも敵対的な態度を崩しません。時に喧嘩を売るような言動も見せてきて空気がピリつく場面もあるのですが、佐々一人は冷静で「じゃあ、その点は長野県警にお任せすることにしましょう」という感じで、誰かがキレ出す前に受け流します。

一度会議を決裂させると修復にはかなりの時間と労力がかかるので、決裂させないのが一番。佐々はそうした動きができているのです。

また佐々は現場主義であり、会議室と現場の間を絶え間なく行き来しています。部下からの伝聞ではなく自分自身で現場を見ることで課題の洗い出しがより的確なものとなるし、部下達の士気高揚にも繋がるというわけです。

こうした佐々の姿勢と、会議室にいるだけの長野県警上層部との違いがはっきりと露呈したのが鉄球作戦時の電線の処理でした。

鉄球の邪魔になる電線を切断しておくよう、現場に対しては事前に指示が出ていたのですが、前日に佐々が現場を確認したところ電線は切られていませんでした。

会議でその点を報告し、長野県警上層部は当日までには切らせておくと約束したのですが、鉄球作戦当日になっても依然として電線は切られていません。上層部からの指示に対して、現場は「電線を切る」を「送電を停止する」という意味だと勘違いしていたのです。

現場の状況をちゃんと見ていればすぐに分かったはずの勘違いが、伝聞で済ませているので当日になるまで分からなかった。これが形骸化したリーダーシップの弊害なのです。

そして鉄球作戦当日になると、それまでの温和な空気から一転して佐々はピリつきはじめ、眠たいことを言ってくる長野県警幹部を容赦なく叱りつけます。

ここ一番という大勝負の時には厳しい態度で現場の空気を引き締める。できない人間達の言うことを聞いていても仕方がないので、それまでは長野県警の顔を立てる配慮もしていたものの、現場では「こちらが上である」ということを見せつける。

こうした濃淡の付け方も良かったと思います。

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