バットマン リターンズ_暗い・悲しい・切ない【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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DCコミック
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(1992年 アメリカ)
愛されたい、認められたいといってじたばたするヴィラン達が主人公の回であり、ペンギン、キャットウーマンともにあまりに悲しい身の上なので、見ていてどうしようもなく辛くなる作品です。ティム・バートンの真骨頂的作品。

作品解説

ティム・バートン リターンズ

ワーナーは前作公開後、すぐに続編に取り掛かるつもりであり、パインウッドスタジオには巨額の保管費用を払って前作の巨大セットを維持していました。

しかしティム・バートン監督は続編に関わるつもりはなく、前作の終了後にはフォックスで『シザーハンズ』(1990年)の製作を開始。

その間、前作の脚本家サム・ハムが初期稿を執筆しましたが、それは前作の直接的な続編であり、ヒロインは引き続きヴィッキー・ベールでした。そして、新ヴィラン キャットウーマンとペンギンが隠された財宝を追いかける話がメインプロットだったようです。

しかし、ティム・バートンにその企画を持ち込んだところ、脚本の出来が良くないと言われました。

そこでバートンのお眼鏡にかなう脚本に書き直すべく、青春ブラックコメディ『ヘザース/ベロニカの熱い日』(1989年)の脚本家ダニエル・ウォーターズが起用されました。バートンは『ヘザース』の出来に感銘を受けていました。

攻撃的で内省的な本作のカラーは、ウォーターズにより決定づけられたのでした。

また続編を嫌うバートンの方針でヴィッキー・ベールの続投は見送られ、前作との関連性の低い作品として製作されました。

そして『ケープ・フィアー』(1992年)や『フェイス/オフ』(1997年)のスクリプトドクターであるウェズリー・ストリックがさらなる脚本の手直しに着手。

ペンギンが何をしようとしているのかが弱いと感じたストリックにより、旧約聖書のモーゼの話に着想を得たペンギンのオリジンと、ゴッサムの人々から長子を奪うテロ計画が創作されました。

また登場させる予定だったロビンは削除されました。

全米年間興行成績No.1

本作は1992年6月19日に全米公開され、最初の週末だけで4569万ドルを稼ぎました。これは当時としては最高のオープニング記録でした。

全米トータルグロスは1億6290万ドルであり、2億5071万ドル稼いだ前作には及ばなかったものの、それでも1992年の年間興行成績で第1位という大ヒットになりました。

感想

ヴィランが主人公の怪奇映画

一応はバットマンの看板を使ってますけど、描写が多いのはペンギンとキャットウーマンで、彼らが主人公と見て間違いないでしょう。

ヒーローではなく怪人を描いた作品であり、セットやライティングなどは往年の怪奇映画風でしたね。

口から常に黒い液体を垂らしている(あれは一体何なんだ?)ペンギンとか、つぎはぎだらけのキャットウーマンとか、必要以上にグロテスクな描写が多いことでも、本作の力点がどこにあったのかは分かります。

ペンギンの報われない人生

ティム・バートン映画に共通する特徴って、世間に対する違和感を持っているんだけど、かといって完全に一線を引くでもなく、愛されたい、認められたいという願望を持ってじたばたする不器用なキャラクターなんですけど、本作のペンギンは、それが最も顕著に表れたキャラクターとなっています。

その醜さゆえに実の親に捨てられ、サーカス団で育てられたペンギン(ダニー・デビート)は、表の世界に乗り出す機会をうかがっていました。

街の有力者マックス・シュレック(クリストファー・ウォーケン)という”演出家”を得たペンギンは、ゴッサムシティから悲劇の主人公として迎え入れられ、市長選にまで担ぎ出されたことで「愛や尊敬を得られるかも」と期待するのですが、結局は利用されていただけということに気付きます。

彼の生き方の下手さ加減が何とも悲しくなってきますね。

ペンギンは監督の前作『シザーハンズ』(1990年)の主人公エドワードと同類と言えるのですが、純粋無垢な存在だったエドワードとは決定的に違うのが、「力を持ちたい」「異性を抱きたい」といった下世話な欲望も持っているということ。

ではどちらが私に響いたかというと、ペンギンの方でした。

みんなうまく隠しながら生きている欲望を、彼はうまくコントロールできず、それが狡猾な人間に付け込まれる隙になってしまった。その様には物の憐れが宿っています。

またペンギンが失脚する原因を作るのが、ある意味同類と言えるバットマンであるという点も見逃せません。

ペンギンの悪事が露呈する前から、ブルースは執事のアルフレッドに対して「あいつはなんか胡散臭い」と言い続けるのですが、その時点で確たる論拠があったわけではなく、あいつがみんなからちやほやされるのが気に食わんみたいな歪んだ思考が垣間見えます。

かくしてバットマンから目をつけられてしまったペンギンは、じゃあこっちからもバットマンの評判を下げてやるぜということで工作をしていくのですが、結果共倒れとなります。

しかし覆面をかぶっているバットマンと違ってこちらはどこの誰だか分かっているだけに、世間からの評判がひっくり返れば居場所を失ってしまいます。

“善良な人々”に野菜をぶつけられたペンギンは地下に戻り、クリスマスにシャレにならないテロを仕掛けるのですが、前作のジョーカーのように混乱や破壊をこの上なく楽しんでいるキャラクターではなく、本当に欲しいのは愛だったのに、それを得られなかったので怒りと破壊で返したという点が悲しくなります。

バットマンとキャットウーマンの悲恋

もう一人の主人公キャットウーマン(ミシェル・ファイファー)は、その本名をセリーナ・カイルと言います。

セリーナもまた生き辛さを抱えている人物であり、職場では尊敬されず、プライベートは孤独。私の人生は終わっているという自覚があって、自嘲気味の冗談が口癖のようになっています。

そんなセリーナですが、上司であるマックス・シュレックの秘密を知ってしまったことから高層ビルから突き落とされ、野良猫たちの介抱によってキャットウーマンとして生まれ変わります。

それまでの人格の裏返しのように奔放になったセリーナの言動に周囲はドン引きするのですが、彼女に魅了される人物が一人だけいました。

それがブルース・ウェインであり、同じ痛みを持つ者として本能的に惹かれあいます。

そんな二人を象徴するのが仮面舞踏会の場面であり、周囲は仮面をつけている中、二人だけは素顔であり、彼らにとっては社会に対して晒している素顔こそが虚像であるということが示されています。

彼らは覆面をかぶることで本性に戻ることができるのですが、舞踏会の最中に、相手がバットマン/キャットウーマンであることを認識します。

素顔では恋人同士ではあるが、覆面をかぶるとヒーローとヴィランとして殺し合いをする仲である。

では、これを機に覆面をかぶることをやめるのかというとそうではなく、覆面こそが自分の本性なので、恋人のためであってもそれは裏切れないとして、最終決戦へと雪崩れ込んでいきます。

何という切ない話なんでしょうか。

≪バットマン シリーズ≫
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バットマン リターンズ_暗い・悲しい・切ない【8点/10点満点中】
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