シャザム!_笑えて泣ける極上の鑑賞体験【8点/10点満点中】(ネタバレなし・感想・解説)

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DCコミック
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(2019年 アメリカ)
養子として育てられた少年ビリーは、ある日魔法使いからパワーを与えられ、シャザムというヒーローに変身できるようになる。親友フレディと共にシャザムの能力を使って遊んだり人助けをしたりしていたが、ある日、シャザムを脅威と考えるDr.シヴァナが現れる。

8点/10点満点中 丁寧な作りのヒーロー誕生編


(C) 2019 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.

4月19日公開予定の作品ですが、IMAX最速特別試写会なるもので一足先に見てきました。

なぜかダンテ・カーヴァーさんが登壇し、司会の女性との打ち合わせ時間0分と思われる会話で妙な空気になったりもしたものの、カーヴァーさんの深い深いアメコミ愛は伝わってきました。そんなカーヴァーさんが猛プッシュする通り、本作は実に素晴らしい作品に仕上がっていました。

シャザムとは

DCユニバースにおいてはスーパーマン並みに強いとされているキャラクターです。

彼は1939年にクリエイトされ、その時にはキャプテン・マーベルという名前でした。キャプテン・マーベルって最近ブリー・ラーソンがやってたよなぁと思うのですが、それとはまったくの別物です。そういえば、あっちのキャプテン・マーベルにもジャイモン・フンスーが出てましたね。

このキャプテン・マーベル、元はフォーセット・コミックスという出版社から出されていたのですが、設定にスーパーマンとの類似点が多くDCコミックから盗作として訴えられた上、1950年代には売り上げが落ちたので廃刊となりました。1970年代にDCが版権を取得した際にはマーベル・コミックが「マーベル」という名称を商標登録した後だっためキャプテン・マーベルと名乗れなくなり、代わりに変身する際の掛け声「シャザム!」がキャラクターと作品の名称となったのでした。

シャザムとは神々に由来する6つの能力を持った人類の守護者。そして、何者かに両親を殺害された上、引き取られた叔父宅(父の遺産狙い)でも冷遇されるという『火垂るの墓』の清太状態のビリー・バットソン少年にその力が与えられ、彼はシャザムへと変身できるようになったのでした。なお、このビリー少年の設定は原作のもので、映画版は全然違うのですが。

スタッフ・キャストについて

監督はスウェーデン出身のデヴィッド・F・サンドバーグ

監督のデヴィッド・F・サンドバーグ母国スウェーデンで短編監督をしていた人ですが、泣かず飛ばずの中で作った2013年の短編ホラー『ライト/オフ』が再生回数1億5000万回を記録したことを機に渡米。後に『メッセージ』や『バードボックス』といった話題作を手掛けることとなる脚本家エリック・ハイセラーによって長編用に脚色されたリメイク版『ライト/オフ』の監督も務め、わずか5百万ドルという製作費に対して全世界で1億4800万ドルもの興行成績をあげました。

次いで、ワーナーの人気シリーズ『死霊館』のスピンオフ『アナベル 死霊人形の誕生』を2017年に監督し、1500万ドルの製作費に対して全世界で3億ドル以上も売り上げる大ヒット。ここでワーナーからの信頼を完全に得たと思います。

この人の特徴は小さめの製作費で大きく稼げることであり、本作『シャザム!』も、コミックの映画化企画としては異例の8000万ドルで製作されています。DCEUの過去作品の製作費と比較すると、これがいかに少ない金額であるかが分かりますね。

  • アクアマン 1億6000万ドル
  • ジャスティス・リーグ 3億ドル
  • ワンダーウーマン 1億4900万ドル
  • スーサイド・スクワッド 1億7500万ドル
  • バットマンvsスーパーマン 2億5000万ドル
  • マン・オブ・スティール 2億2500万ドル

シャザム役は『CHUCK/チャック』のザッカリー・リーヴァイ

シャザム役のザッカリー・リーヴァイは、2007年から2013年にかけて5シーズンが放送されたテレビドラマ『CHUCK/チャック』でタイトルロールを演じました。友人(実はCIAのエージェント)から送られてきたEメールを見たことがきっかけで、脳に国家機密がダウンロードされた家電量販店のアルバイトというユニークな設定は本作にも通じるものがあります。偶然得た特殊能力がきっかけで、本人の意志とは無関係に戦いの当事者にされてしまうという巻き込まれ型の主人公という点でも、本作と『CHUCK/チャック』は共通しています。

また、彼は『塔の上のラプンツェル』のフリン・ライダー役としても有名で、ラプンツェル役のマンディ・ムーアとデュエットした『輝く未来”I See the Light”』ではアカデミー歌曲賞にノミネートされました。

脚本のヘンリー・ゲイデンって一体誰だ

脚本家としてクレジットされているヘンリー・ゲイデンなる人物は初耳なのでその前歴を調べてみたのですが、2010年の”Zombie Roadkill”というテレビシリーズと、2014年の”Earth to Echo”という子供向けSF映画の脚本を書いたくらいで、今のところ、際立った仕事はしていないようです。

私が注目したのは、2007年の『スパイダーマン3』でアルヴィン・サージェントのアシスタントを務めていたという経歴です。アルヴィン・サージェントとは1960年代から活躍していた大物脚本家で、1977年の『ジュリア』と1980年の『普通の人々』でオスカーを二度受賞。その他に1973年の『ペーパー・ムーン』も手掛けており、本来は人間ドラマを得意とする脚本家なのですが、奥さんのローラ・ジスキンがサム・ライミ版『スパイダーマン』シリーズのプロデューサーだったことから、『スパイダーマン2』『スパイダーマン3』、そして『アメイジング・スパイダーマン』の脚本を担当。特に、コミックに人間ドラマを持ち込んだ『スパイダーマン2』はサージェントのおかげで傑作になったようなものでした。

そんなサージェントの弟子筋ということで、スペクタクルと温かい人間ドラマの融合を期待されて本作にヘンリー・ゲイデンが雇われたのだと推測します。今後伸びる可能性のある脚本家なので、注目していきたいと思います。

丁寧な仕事の光る出来の良い作品

さて本編ですが、DCEUではナンバー1の作品だと思います。ホラー出身監督×アルヴィン・サージェントの弟子筋の脚本家ということでサム・ライミ版『スパイダーマン』に極めて近い作風となっています。つまり、大風呂敷を広げるのではなく、小さな舞台での血の通ったドラマに落とし込めているということです。

現実世界と超常的な世界の接点の作り方が良い

魔法とか神とかが絡んで実写化に困りそうな題材ながら、現実世界との接点をうまく作り上げています。冒頭、後にヴィランのDr.シヴァナとなるサディウス少年の人格形成過程に、ジャイモン・フンスー演じる魔法使いが深く関与していたというドラマを置いたことで、荒唐無稽な世界観と血の通った人間ドラマを有機的に繋げることに成功しています。

成長後のDr.シヴァナは魔法界への入り口を探して、自分と似た経験を持つ人を世界中から集めているのですが、魔法界という本来の目的を掲げたのでは金も人も集まらないことから、表面的には集団催眠の研究ということにしている一工夫も効果をあげています。魔法とか神という言葉が簡単に受け入れられるわけないよねという点から映画がスタートしているので、観客との間に温度差が生まれていないのです。

この辺りは、心霊ホラー2作品で名を上げたデヴィッド・F・サンドバーグ監督の手腕なのかなと思います。霊とか怨念みたいなキーワードを、少なくとも映画を見ている間には観客に信じてもらわないといけなかったのですから。

笑えるんだけど深くもあるドラマが良い

主人公ビリー少年には、幼い頃に遊園地で迷子になった際に母親が彼を引き取りに現れず、以来里親の元を転々としているものの、実の母を探して脱走を繰り返しているというハードな設定が置かれています。彼は新たな家に引き取られるのですが、そこはグレート義太夫みたいなアジア系の大男とラテン系巨乳ママが5人の里子を迎えているグループホームであり、足に障害を持つヒーローオタクのフレディがビリーの兄弟兼親友となります。

この通り状況はかなりシリアスなのですが、ビリーもフレディも表面的には明るく振る舞い、少年らしいバカな行動も多いことから、観客に対して過度の緊張感を与えていません。ただし、バカバカしい会話の中に一瞬、シリアスな瞬間を入れてくるんですよね。この匙加減が見事でした。

例えばビリーがグループホームにやってきた翌日、フレディはスーパーパワーを身に付けるなら飛行能力と透明化のどちらがいいかというバカ話をビリーにしてきます。これが本当にバカバカしい話で観客にとっても笑いどころとなっており、ビリーはフレディを相手にしません。しかし、この会話の最後にフレディはビリーに対して「お前はそうやって透明人間でいるつもりなのか?」と、環境に拗ねて誰にも心を開かないビリーの状況を言い当てた一言をポロっと言うわけです。これにより、フレディのバカ話はビリーのためを思ってのものだったことや、一方的にまくしたてているように見えて、実はフレディにはビリーの状況が見えていたことなどが分かる仕組みとなっています。

この辺りの湿っぽいドラマとユーモアの組み合わせは、アルヴィン・サージェントの薫陶を受けたヘンリー・ゲイデンのフィールドだったのかなと思います。

小道具の使い方が良い

ヒーローオタク・フレディの持ち物として、スーパーマンにはじき返された弾丸と、バットラング(バットマンが扱う手裏剣のような武器)のレプリカが登場します。この二つは、ここがスーパーマンとバットマンの存在する世界であることを示すためのアイテムとして機能すると同時に、作品中の重要局面でのキーアイテムとしても再登場します。

スーパーマンにはじき返された弾丸は、フレディがシャザムをビリーとして認識する際のアイテムとなるし、バットラングはDr.シヴァナの弱点を発見するきっかけとなります。同一の小道具にいくつもの意味を込めるという話の組み立て方が実に見事でした。

スーパーパワーを得た少年たちの反応が良い

シャザムとなったビリーは、唯一正体を明かしたフレディとともにシャザムの特殊能力を使って遊び始めるのですが、「あれもできる!これもできる!」と二人で盛り上がる様は大変微笑ましいものでした。また、どんどん能力を試していきたいということでシャザムの活動範囲が大きくなっていき、最終的にDr.シヴァナとの対決に至るというドラマと見せ場の相関のさせ方もよく、破綻なくよく作り込まれた映画だなぁと感心させられました。

※ここからネタバレします

戦う意義の与え方が良い

終盤、ビリーは生き別れた母の居場所をついに突き止めて、その元へと向かいます。母には母で自分に会えなくなったやむをえない事情があったんだろうと思っていたのですが、実際には、育てる自信がなくて幼いビリーを捨てたという冷たい現実が待っていました。母はビリーとの再会を喜ぶこともなく、今の夫に気付かれると厄介だから早く帰ってくれないかなという態度であり、ビリーが待ち焦がれた感動の再開などそこにはありませんでした。

ここでビリーは過去と完全に決別し、自分には今の家族しかない、今の家族を大事にするのだというマインドへと切り替わります。ちょうどそのタイミングでDr.シヴァナがグループホームの5人の兄弟たちを人質にとり、二人の最終決戦へと雪崩れ込んでいきます。 ビリー個人のドラマから彼に戦う意義を与え、見せ場の高揚感へと繋げていくという構成は実によく出来ていたと思います。加えて、ビリーと母のドラマは単独でもよくできており、シンプルに泣けました。こんなにエモーショナルなアメコミ作品は『スパイダーマン2』以来です。

最終決戦が異常に長いことはマイナス

問題に感じたのは最終決戦。この作風なのでビル群を豪快に破壊しまくるような派手な見せ場はなく、舞台は小さな遊園地であり、視覚的な面白さがさほど追及されていないのでアクションは地味なのですが、これが一生終わらないんじゃないかと思うほど長く、正直言って途中で飽きました。

特に、シャザム戦隊に変わった時点で勝敗はほぼ決したのに、それでも戦闘が終わらず圧勝ムードの中でも延々と緊張感のない殴り合いを続けたことはマイナスでした。

まとめ

ユーモアとシリアスさを絶妙なバランスでブレンドしつつ、荒唐無稽な世界観を無理なく作り上げた点は大いに評価できます。かなり笑えるし泣ける映画に仕上がっています。他方で、視覚的な面白さは他のDCEU作品に大きく譲っており、次回作以降での改善に期待するしかありません。

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コメント

  1. midas より:

    アナベル人形が登場していたの気が付きましたか?